フリーランスに対するハラスメントの概要
しかし、企業が外注先として取引しているフリーランスに対しては、明確には対策を求められていませんでした。
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が中心となり2019年に実施された「フリーランス・技能関係者へのハラスメント実態アンケート」によると、パワハラ経験者は約6割、セクハラ経験者は4割、その他のハラスメント行為の経験者は2割に上ることが報告されています。
このアンケート結果からは、ハラスメントの被害にあっても4割強の人が誰にも言えずに泣き寝入りしていることが分かっており、誰かに相談することもその後の仕事へのネガティブな影響などを恐れて相談すること自体がリスクとなっている実態が明らかにされています。
フリーランスに対するハラスメントの具体的な種類
しかし、一般的には仕事を依頼する事業者側が強い立場で、仕事を受けるフリーランス側は弱い立場として認識されることが多いのが現状です。その歪んだ認識が影響を及ぼし、フリーランスに対してはさまざまなハラスメントが発生しています。以下に主なハラスメントの種類を挙げます。
パワーハラスメント
・精神的な攻撃:脅迫や侮辱するような言葉や酷い暴言を浴びせられた
・過大な要求:本来不要なことを強いられ、実行不可能なことを強制させられた
・人間関係からの切り離し:仲間外れにされたり、無視され続けたりした
・経済的な嫌がらせ:将来や次の仕事をほのめかして無理な値引きを迫られた
・過小な要求:能力や経験からかけ離れた低いレベルの仕事を強要された
・身体的な攻撃:暴行や傷害を負わせられた
セクシュアルハラスメント
・年齢・容姿・身体的特徴について話題にされた、からかわれた
・性的な質問やいやらしい話をされた
・不必要に身体に触られた
・「男のくせに」や「女のくせに」などの発言をされた
・酒の席でお酌を強要された
・ホテルの部屋に呼ばれた、性的関係を求められた
・性的指向や性自認について話題にされた、からかわれた
・プライベートを詮索され、過度に立ち入られた
マタニティハラスメントの例
・妊娠を告げたら仕事の打ち切りを言いわたされた
・自主的な産休・育休・介護休暇などの取得に対して、拒否や嫌がらせをされた
・妊娠と出産の計画が無いことを強要する圧力をかけられた
・妊娠を告げた途端に、仕事を減らされた
・妊娠による容姿などの変化について話題にされからかわれた
フリーランスがハラスメントを受けないようにする予防や対策方法
・フリーランスの取引に関する法律の基礎知識を学び、自分の身を守るために適用される法的手段について理解しておく
・仕事を受ける前に受注先の事業主に関する情報を集めて、会社としてのハラスメント対策を講じている実績や形跡があるかをできる限り事前に確認し、その会社の仕事をしたフリーランスが過去に受けたハラスメント行為について報告されていないかなどを調べる
・受注先のとの口約束だけで仕事を受けることはできるだけ避け、相手先にハラスメント行為に関する契約項目が無い場合も対等な立場での取引であることを前提とした契約書に基づいて仕事をする
・フリーランスとしてのセルフブランディングを意識した情報発信やプロフィールの公開を行い、ハラスメント行為を容認しない姿勢を普段から意思表示する
フリーランスがハラスメントを受けた場合にすべきこと
・ハラスメントを受けた時の状況をできるだけ詳細に記録しておき、支援を得るために後日状況説明を求められた場合、根拠のない感情的な主張として片付けられてしまう恐れがあるため、客観的なデータや情報として記録を残しておく。
・ハラスメント行為を繰り返し受けた場合は、その都度どのような状況でハラスメントを受けたか、どのような会話のやり取りがあったかを時系列でできる限り客観的かつ具体的に記録を残しておく。
・受注先の事業主がフリーランスを対象としたハラスメント対策を講じている会社かどうかを確認し、フリーランス向けの相談窓口が設けられている企業の場合は、その窓口に相談する。
・受注先の事業主にフリーランス対象のハラスメント相談窓口がない場合は、厚労省の「フリーランス・トラブル110番(フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】 (freelance110.jp))」に相談する。
・ハラスメントを受けたことで、およびそれについて人事担当者や相談窓口に連絡したことによりハラスメントの行為者との関係性の業務上の変化が生じ、仕事を継続することが困難になる可能性がある。そのため、フリーランス自身が望まない場合でも、急な契約の打ち切りなど不利な状況が発生する可能性も考え、自分から契約関係の終了を申し出る時期の検討および次の契約先または別の仕事を見つける準備を始めておく。
フリーランス保護法について
フリーランスの働き方は多様な働き方を加速させる要因の一つになっている一方で、報酬の不払いや支払い遅延、ハラスメントなど、取引先企業との間でフリーランスがさまざまなトラブルを経験している実態もあります。
フリーランスは個人で仕事の依頼を受けるため、一人で依頼主である組織としての企業と条件や価格の交渉を行うのは弱い立場に置かれることが多いという特性があります。そのような状態を改善するため、フリーランスの不利な状況に対処することを目的に、2023年5月に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(以降、「フリーランス保護法」という))が公布されました。
フリーランス保護法は、増加するフリーランスが安心して働ける環境を整備するためとして、次の2つの目的で作られた法律です
- フリーランスの方と企業などの発注事業者の間の取引の適正化
- フリーランスの方の就業環境の整備を図る
この法律では、発注側の事業者が満たす要件によって、フリーランスに対して負う義務の範囲が異なりますが、義務項目としては以下の7つがあります。
①書面等による取引条件の明示
②報酬支払期日の設定・期日内の支払い
③禁止事項: フリーランスに対して継続的な業務委託をした場合に法律に定める行為をしてはならないこと
④募集条項の的確表示
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
⑥ハラスメント対策に係る体制整備
⑦中途解除等の事前予告
上記の中で⑥のハラスメントに関しては、フリーランスに対するハラスメント行為に関して、相談できる体制を整備するなどの措置を講じる必要があることが規定されています。
具体的には以下の通りです。
・ハラスメントは、特定受託事業者(フリーランス)の尊厳や人格を傷つける行為として許されず、これにより引き起こされるフリーランスの就業環境の悪化・心身の不調・事業活動の中断や撤退を防止することを目的とする規定。
・特定業務委託事業者(依頼側の企業)は、ハラスメント行為(セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、パワーハラスメント)により特定受託事業者(フリーランス)の就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならない。
・特定業務委託事業者(依頼側の企業)は、特定受託事業者(フリーランス)がハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取り扱いをしてはならない。
この新しい法律は、2024年秋ごろまでの施行が予定されており、発注事業者の義務に関する具体的な内容はそれまでに各関係省庁から公開されます。
この法律はフリーランスの方々が安心して働ける環境の整備が目的ですが、フリーランスに業務委託する事業者が従業員を使用しているかどうか、および継続的な業務委託をするかどうかの条件によって、果たす義務の項目が異なる点に注意する必要があります。
フリーランスの方は、自分の身を守り適切な取引を行うため、取引する発注事業者がどの条件に該当する事業者かについて認識を持っておく必要があるでしょう。
まとめ
新しい法律によってフリーランスの働く環境がより適正かつ望ましいものとなり、発注事業者もフリーランスもお互いに良い関係で業務委託を継続できる社会を目指して、フリーランスの中でもフリーランス保護法を広めていきましょう。