例えば、コンビニでお茶を買おうと思った時、1種類だけロゴマークもデザインも施されてない薄緑色の液体入りのペットボトルがある、と想像してみてください。あなたはこのお茶を選びますか? 恐らく、買わないはずです。
ブランドは、無数のブランドに囲まれて生活する私達にとって、膨大な選択肢から無意識に候補を絞りこむ、難しい言い方をすると、情報処理を簡略化する役割を果たしています。
ブランディングを理解する
ブランディングで好感度やインパクトを作り出す
現代では概してモノやサービスの質的レベルは高くなり、<いいモノ>であることは当たり前になっています。品質の差が小さくなり、さらに質を上げたり、価格を下げたりするだけでは、売上を伸ばすことが難しい時代を迎えています。
そんな時代にモノやサービスの値打ちを上げる有効な方法が「ブランディング」、すなわちブランド力を向上させること、です。
例えばスターバックスコーヒーは、日本では上場した日に新聞広告を出した以外、マス広告を行っていません。それでも広く世間に認知され、評価を得ています。
それを可能にしたのは、どの店舗でも<体験の一貫性>を追求しているから、と言われています。広告費をかけるかわりに、ハイサラリーの男女が出入りする良い立地に出店し、無料Wifiやパソコン用コンセントを導入。友人のように迎えてくれる接客、カスタマイズできる高品質のコーヒーやホテルラウンジのようなソファを提供し、長時間くつろげる空間を演出しています。
つまり、スタバは深緑色のロゴだけでなく、建物や内装、スタッフの接客やコーヒーの味、癒しの気分など、顧客とのすべてのタッチポイント(接点)で、ブランドコンセプトの“Third Place”(職場でも家庭でもない、第三の居場所)を体感できるイメージを顧客の頭の中に形づくることに成功しているのです。
ブランディングを一言で言うと、対象のモノやサービスに好感度やインパクトを付与する活動です。単に識別できるだけでなく、そこに知覚できる価値を付け加えるのです。
強いブランドを持つメリット
強いブランドを持つメリットは主に以下の3点です。
価格競争から脱却できる
ブランディングされたモノやサービスは、値引きしなくても顧客に選ばれ、安定的に利益の出る事業基盤を形成できます。
口コミの効果を活用しやすい
商品を気に入ってくれた人は、他の人にも自分が気に入った商品のことを推薦してくれます。口コミ対策は現代のマーケティングでは必須です。ブランド力を高めることで、口コミの効果を高めることができます。
ファンがつき、より高くで売れるようになる
ブランド力が上がると、モノやサービスを高くで売れるようになります。ファンが増えることで、宣伝費をかけなくても商品が売れ仕組みが出来上がり、販促コストの削減にもつながります。
これら3つの直接的な効用のほかに、社員のロイヤリティ向上や、より優秀な社員を採用できるようになるといったメリットも無視できません。
ブランドへ顧客を引きつけ、行動を促進させるコンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングの概要と目的、鍵
コンテンツマーケティングとは、自社のターゲット層が関心のある・役に立つコンテンツを製作・配信・拡散するマーケティング手法のことです。有益で説得力のあるコンテンツにより、顧客を引き寄せ、獲得し、エンゲージメント(深い結びつき)を作り出すビジネス手法です。
コンテンツマーケティングの目的は、収益につながる顧客行動を促進することです。他のメディアを借りずに自前のメディアで実施する点も特徴です。情報発信をして、顧客と良い関係づくりをし、最終的には収益につながる行動を起こしてもらうこと、と定義できるでしょう。
サイトを何度も訪問してくれて、商品やサービスを購入してくれるような優良顧客をはぐくむ(ナーチャリングする)ためには、継続的に訪問したくなるようなコンテンツ戦略が重要です。顧客を惹きつけ続けるような付加価値の高いコンテンツを提供することが、コンテンツマーケティングの鍵と言えます。
コンテンツマーケティングが注目される理由
では、何故、今、コンテンツマーケティングが注目されるのでしょう。そこには3つの背景があります。
一つ目は、<流入経路が増えた>ことが挙げられます。2010年以降、ソーシャルメディアが普及したことで、コンテンツが流通する環境が整いました。スマホアプリの普及も、コンテンツマーケティングの価値を高める原因です。
二つ目の背景は、単純に<広告が効きづらくなくなった>ことです。マス広告は無論、Web上でもリスティング広告の単価は高騰する割に、費用対効果は下がる一方です。賢くなった現代の顧客は、YouTubeで広告が流れると最速でスキップし、好きな時に好きな場所で自由意志によってコンテンツを味わったり、SNSでシェアしたりすることを好みます。
三つ目の背景は、<SEO環境の変化>です。GOOGLEは2012年以降、現在まで幾度とな検索エンジンのアルゴリズムを変更してきました。コンテンツの質を重視して、検索上位を決めるようになったのです。検索の精度が上がり、ユーザーからの信頼が高まることで、上位表示されることの意味がさらに大きくなっています。
コンテンツマーケティングの目的は大きく2つある
コンテンツマーケティングで目指すゴールは大きく分けて2つあります。表立った目標はセールス目標で、具体的にはリード獲得、成約、紹介などの件数を伸ばすことです。こちらは検証可能で、はっきり数値化されます。そして、もう一つ忘れてならない目標は、ブランディング、ブランド価値の向上です。ブランド認知、ブランド連想、ブランド推奨など、定性的な指標を上げていくことです。
A.自社製品をあの手この手で売ろうとするセールスマン
B.困っていることを豊富な知識で解決してくれる専門家
ユーザーは、AとBのどちらが推す商品を買いたいと思うでしょう。
コンテンツマーケティングは、Bの専門家的立場に立って将来顧客になり得るユーザー層に有益な情報をもたらします。自社の商品やサービスに関連する情報を提供するわけで、専門家としての権威性があります。Googleの評価が上がりやすく、Web上のプレゼンスが高まることで、認知や好感度を上げやすくなります。
ブランディングを実現しているコンテンツマーケティングの事例を紹介
ミシュランガイド
タイヤメーカーのミシュランが「ミシュランガイド」を作った理由は、元々、カーライフの便利さや楽しさを伝えることでタイヤ需要の底上げを狙ったものでした。今や、ミシュランに掲載された料理店は<おいしいお店>としてのお墨付きを得て、全世界の人が車を使って、その味を求めて移動します。「ミシュランガイド」というコンテンツがグルメ界でのパブリックな権威として認識されているのです。ミシュランは、コンテンツマーケティングにより王道的なブランドを築けた成功例と言えるでしょう。
ニキペディア
「ニキペディア」はガシー・レンカー・ジャパンが運営する<にきび>の情報サイトです。ニキビに関するあらゆる悩みが解決するのではと思えるほどコンテンツが充実しています。<効果の高いニキビ薬5選>、<使ってよいマスクは1種>、<ニキビとヒゲの深い関係! 10秒でホルモンバランス診断>といったタイトルがずらりと並びます。深刻なお肌の悩み相談に乗ってもらえたユーザーは、サイトのセールスに付き合ってくれるでしょう。サイト内には「プロアクティブ+」のバナーが設置され、販売サイトへ飛べる仕組みになっています。
北欧 暮らしの道具店
輸入雑貨を販売するクラシコムが運営するECサイトです。商品紹介だけでなく、生活のQOLを上げるような提案型コンテンツが並んでいます。ライフスタイル誌のような洗練されたインターフェースには、<ヘアケアのもやもや解決><すき間時間でアルバム作り_スマホ写真を気負わず整理><飾るだけで心がなごむ雑貨>というタイトルが。ここでは、商品を買ってくれ、と躍起になっているECサイトではありえない流れ、つまり記事を読むうちに欲しいモノを見つけ、自然な流れで購入に至るケースが多いことでしょう。
サイボウズ式
BtoBのカテゴリーからも一社成功例をご紹介します。ビジネスクラウドのサイボウズが運営する「サイボウズ式」は<新しい価値を生み出す>をコンセプトに、仕事や人生の本質に迫る骨太な記事が評判で、東洋経済オンラインなど外部メディアにもよく転載されます。本業のクラウド活用法、といった直接的な内容にしなかったところがミソ。最近のタイトルは、<介護はテレワークで、の幻想><同期の活躍を焦ってしまう君へ><なぜ、被災地に入ったICT支援がすべて失敗したのか>でした。つい読みたくなるテーマ性がお手本になると共に、「サイボウズ式」と社名をコンテンツ名に使っていることが、ブランドの認知や向上に一役買っています。
ブランディング効果を高めるコンテンツマーケティングのコツ
早く小さく始めて、長く大きく育てる
コンテンツマーケティングは、早く取り組みを始めた方がメリットを享受できる期間が長くなります。検索エンジン的にも、類似コンテンツであれば早くインデックスされたものの方が上位表示されやすい傾向があります。
また、多額の予算を最初から投下して大々的にスタートするよりは、少額の予算で成果を見ながら進める方法がおススメです。メリットを確信できたら、投資額を増やしてコンテンツ量を増やすと良いでしょう。
アクセスの集まる記事と集まらない記事、成果の出る記事と出ない記事、それらの傾向が徐々に明らかになりますので、記事数が少ないうちであれば軌道修正も容易です。
ブランディングを意識したコンテンツマーケティングの進め方
①目標設定
コンテンツマーケティングで何を達成したいのかを明確にします。それによりやるべきことが見えてきます。コンテンツマーケティングの目的には大き分けて2つあると上述しましたが、最初の定量的な目的については、具体的な数値目標を掲げると成果を評価しやすくなります。一方のブランディング効果については、例えばインタビューやアンケートを用いて認知度や好感度を測定するなど、それぞれの目標をどのように数値化するかを考えると良いでしょう。
②オーディエンス・マッピング
コンテンツマーケティングを実施する前に、ターゲットを明確にする必要があります。顧客を分類し、そのニーズを理解し、リーチするための方法を策定します。対象ジャンルを広く取ることで、大きなアクセスが期待できる側面もありますが、競合が強くなり、また範囲を広げすぎることでブランディング効果が薄まる可能性があることは理解しておきましょう。
③構想とプランニング
コンテンツのテーマを決め、どのような形式で配信するか、ストーリーラインとスケジュールを策定しましょう。ブランドのストーリーを盛り込むことは、コンテンツマーケティングでブランディングを行う上でとても有効です。
④コンテンツの制作
コンテンツの制作には、専門的なSEOの知識や技術が必要になります。それを社内で賄うか、外部に委託するかは、確保できるリソースや立てた目標によって変わります。アウトソーシングする場合でも、窓口となる担当者には相応の業務負担が発生することは理解しておきましょう。
⑤コンテンツの配信
良質なコンテンツを作成しても、それが意図したオーディエンスに届かなければ無意味です。ターゲットがコンテンツを見つけやすいよう適切な配信チャネルを選択しましょう。具体的にはWeb記事・SNS・動画・ホワイトペーパー・メルマガなどがありますが、書籍やイベントのような非デジタルのコンテンツにも依然として価値があります。
⑥コンテンツの拡散
SNSによる拡散のしやすさは、コンテンツマーケティングの大きな強みです。拡散されやすいコンテンツを作成することに加えて、インフルエンサーの起用も検討しましょう。ただしSNSには炎上のリスクもつきまとうため、運用は慎重に、何かあったときの対応マニュアルも事前に定めておくと良いでしょう。
⑦コンテンツマーケティングの評価と改善
ある程度流入が増えて、サイト内でのユーザー行動に関して数値が確認できるようになったら、①で設定した行動目標に対する実績を評価し、改善を行います。サーチコンソール等でデータを確認し、インプレッションやアクセスの多いものから改善を行うことで、インパクトを大きくし、成果を早く上げやすくなります。ただし、コンテンツマーケティングは成果が出るまでには数ヶ月~年単位で時間がかかる場合もある点には注意が必要です、息の長い計画を立てておくことが肝要です。
コンテンツマーケティングはブランディングの王道
たとえ価格が安かろうと、競合他社の商品には目もくれず、自社の商品を継続的に買ってくれる顧客は<ブランドロイヤルティ>と呼ばれるファン心理に達しています。
ブランド力は目に見えづらく、数値化するのも難しいですが、ヒト・モノ・カネと同等の<資産>であることは間違いありません。
今後ますます商品過多の時代になることを考えると、他社との差別化を中長期の施策で実現するコンテンツマーケティングの重要性は、ますます高まっていくでしょう。